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中間報告(平成23年9月24日)

平成23年9月24日に開催された第23年度第1回通常総会にて、「算数にソロバンをどう生かすか」についての中間報告が下記のとおり行われました。
「算数にソロバンをどう生かすか」
~日本数学協会との共同研究の中間報告概要~

京都大学名誉教授 日本数学協会会長   上野 健爾

 

 現在、ソロバンを使った算数教科書作成の作業が行われており、小学校3年生まではほぼその内容が確定した。ここまでは整数の四則演算が主であるのでソロバンを使うことは有効でであった。しかし、分数や比例が重要なテーマとなってくる小学校4年生以降の教科書に関しては重大な問題が生じる。

 

(1) ソロバンは算数・数学教育においてどのような位置を占めることができるか

 数学は、数に関する理論、図形に関する理論と関数に関する理論に大きく分けることができる。数と図形の理論は、社会生活を営むために必要とされ、古代のあらゆる文明で数学が誕生する基となったものである。明治政府が和算をやめて、西洋数学を取り入れたのも、軍事や工業分野では関数概念を持たなかった和算では対応できず、西洋数学を使わなければならなかったことに起因している。
 小学校における整数・分数・小数の四則演算の筆算による取り扱いは、中学校以降の文字式の演算、さらには関数の演算へと続き、そのための準備ともなっている。従って小学校での筆算は、将来の数学の学習を考えれば必ず学ばなければならないものであり、ソロバンで代替することのできないものがあることは、十分に留意すべきである。

(2) 比と分数

 関数概念の基礎となるものの一つが比例である。ヨーロッパ大陸では、比の記号は割り算の記号でもある。

5:6=5/6

 比はこのように割り算と表裏一体のものである。割り算の珠算算法と比のソロバン上の置き方との整合性をどのようにとるか、早急に解決することが必   
要である。さらに帯分数を含めて分数をソロバンでどのように表現するか、さらに分数計算をソロバンでどのように行うか、珠算界で早急に解決する必要がある。

(3) 筆算学習とソロバン学習のジレンマ

 小学校における筆算は、中学・高校の数学を展開するための基礎となるものであり、欠くことができないものもある。特に分数計算・比例計算は、中学校以降でも重要である。中学以降での数学の学習をスムーズに行うためには、小学校で筆算を必ずマスターする必要がある。小学校低学年でソロバン計算に習熟することは、筆算を学ぶ必要はないという誤解を生む恐れがある。また逆に筆算を強調すれば、ソロバン学習はおろそかになる。このジレンマの有効な解決策が必要である。

(4) ソロバンの他の活用法

 コンピュータ時代のソロバンの活用法としては、珠算算法のもつアルゴリズムの学習が考えられる。最大公約数の求め方、割り算九九を用いる割り算、開平・開立のアルゴリズムは、その仕組みを学習することは生徒にとっても、大変興味深いことであると考えられる。

(5) まとめ

 算数教科書でソロバンによる計算を小学校1年生から取り上げるのであれば、分数計算・比例計算がソロバンを使ってもできるように、珠算界はソロバンでの分数表記および四則演算のアルゴリズムを開発すべきである。
 小学校低学年でのソロバンは、位取り記数法の理解のための手段として用い、ソロバンによる本格的な四則演算(掛け算・割り算も含めて)は小学校3年生または4年生から始める。その際に、ソロバンでの計算が速くできることを目的にせず、計算のアルゴリズムを理解することを主要な目的とする。
 ソロバンの学習は最大公約数の計算法、開平・開立法、複数のソロバンを使った連立方程式の解法まで含めて、少なくとも中学校まで続けることができ、また続けることが望ましい。

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