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中間報告(平成22年9月25日)

平成22年9月25日に開催された平成22年度第1回通常総会にて、「そろばんを取り入れた算数教科書つくり」「暗算のメカニズムの解明」についての中間報告が連合等委員会 草栁委員長より以下のとおり行われました。
 
「そろばんを取り入れた算数教科書つくり」「暗算のメカニズムの解明」中間報告
 
日本珠算連盟・日本数学協会共同研究
 
1.はじめに
 今年度から、2年間の計画で、日本珠算連盟と日本数学協会の共同研究として、「そろばんを取り入れた算数教科書つくり」と「暗算のメカニズムの解明」の研究がスタートした。これは、日本数学協会の上野健爾会長と日本珠算連盟森友建前理事長の話し合いの結果始められたものである。
 メンバーは、日本数学協会側から上野健爾会長(京都大学名誉教授・四日市大学関孝和数学研究所所長)のほか、岡部恒治副会長(埼玉大学教授)、河野貴美子幹事(前日本医科大学教授)、小川束幹事(四日市大学教授・四日市大学関孝和数学研究所副所長)、有田八州穂幹事(公立小学校教諭・四日市大学関孝和数学研究所研究員)、日本珠算連盟から、田村聡子先生、草栁康子である。毎月1回6時間程度の研究会をこれまで4回開いてきた。その内容は下記の通り。

 

5月 上野健爾会長の論文「珠算の将来」(2003年7月)の研究
6月 河野貴美子先生の「暗算と脳の働き」講演、
「そろばんで学ぼう!さんすう」1年の教科書づくり①
7月 菅原邦雄大阪教育大学教授の「そろばんはどう教科書に取り入れられるか」の講演
「そろばんで学ぼう!さんすう」1年の教科書づくり②
電子教科書について
9月 最近の言語の研究成果を研究にどう生かせるか。
「そろばんで学ぼう!さんすう」1年の教科書づくり③
 
2.「そろばんを取り入れた教科書つくり」について
 そもそも、この教科書つくりの発端は、日本の伝統的な計算道具「そろばん」を、江戸時代の発展を踏まえることなく、計算教育を断絶させてきた明治以降の公教育のあり方を問い直そうという上野会長の論文「珠算の将来」にある。それを踏まえ、「そろばんを取り入れた教科書つくりの意義」を研究チームとしては、次のように考えている。
 
・そろばんは、中国から入ってきて以来、日本の文化に大きな影響を与えた教具であり、江戸時代の民間での普及活用を、あらためていい意味で引き継いでいく必要がある。
 
・そろばんは十進位取りをとっており、これは現在の数の位取り記数法と同じ数字表記であり、量概念と結びつけて数の仕組みや計算の仕組みを学ぶのにふさわしい。
 
・江戸時代のそろばんは、民間では単なる計算道具ではない、考えるための道具として使われてきた。今日の珠算と数学の遊離は、その伝統を正しく受け継いでいない結果である。今日の計算のマニュアル化と暗記の風潮を正すためにも、珠算を算数教育の中で考える道具として活用することが必要である。
 
・そろばんによる計算は数を身体的に身につける「身体知」である。いま、子どもたちの計算における数感覚の欠如(量として数を身体で身につけていないこと)を改善させるためにも、そろばんによる身体知としての計算力と式による数学的説明能力を同時に培っていかなければならない。
 
・そろばんは個々の学習能力に合った自学自習で学んでいける教具である。この自学自習的な教具を活用して、個々の学習能力に応じた進度と方法で計算力とともに数学的な力を身につけていけるものとする。
 
・学習は本来、スパイラルに行われるものであり、そろばんはこのスパイラル学習に合っている。
 
 この方針の下に、そろばん以外にも身体で扱う教具を取り入れながら、とりあえず1年から3年までの「そろばんで学ぼう!算数」の教科書つくりを進めている。今後の大まかな日程は以下の通り。
 
10月 「文化史上より見たる日本の数学」(三上義夫)研究①
「そろばんで学ぼう!さんすう」1年教科書づくり④
11月 「文化史上より見たる日本の数学」研究②
「そろばんで学ぼう!さんすう」1年教科書づくり⑤
12月 「文化史上より見たる日本の数学」研究③
「そろばんで学ぼう!さんすう」1年教科書づくり⑥(1年見本原稿完成)
 
2011年
1月 「数学教育史」研究①
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書づくり①
2月 「数学教育史」研究②
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書づくり②
3月 「数学教育史」研究③
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書づくり③
4月 「数学の歴史 中世の数学」(伊東俊太郎)研究①
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書づくり④
5月 「数学の歴史 中世の数学」研究②、
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書⑤
6月 「数学の歴史 中世の数学」研究③、
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書づくり⑥
7月 「科学の言葉=数」(ダンツィク)研究①
「そろばんで学ぼう!さんすう」2年教科書づくり」⑦(2年見本原稿完成)
9月 「科学の言葉=数」研究②
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり①
10月 「科学の言葉=数」研究③
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり②
11月 「数学物語」(矢野健太郎)研究①
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり③
12月 「数学物語」研究②
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり④
 
2012
1月 「数学物語」研究③
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり⑤
2月 論文「数学から見た暗算のメカニズム」検討①
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり⑥
3月 論文「数学から見た暗算のメカニズム」検討②
「そろばんで学ぼう!算数」3年教科書づくり⑦(3年見本原稿完成)
 
3. 「暗算のメカニズムの解明」研究
 これも上野会長からの提起で始まったもので、当初は「珠算式暗算のメカニズムの解明」を考え、「あんざんグランプリ」の観察や名人たちへのインタヴューから始めた。しかし、教科書づくりと平行させていく中で、「普通の子どもにとっての暗算」ということが重要であるという考えに変化していき、いまは、数や暗算の系統発生的な面や、日本の数学史、世界の数学史の中での数の概念形成や暗算と筆算の関係、そして、算数数学教育史における計算など、日本や西洋の教育の面から暗算計算に迫るという多面的なアプローチを行っている。
 こうした中、少しはっきりしてきたことは、
 
1) 数の概念と簡単な暗算は、人間が言語を獲得した時点ですでに遺伝子に組み込まれていたのではないか
2) 暗算は、身体知を通した左脳活動で、暗記によらないイメージ化した計算ができ、精確になる
3) そろばん式暗算は、「音楽的」であり、時系列的なイメージ化の問題であること  等々
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